2011年8月31日水曜日

美容術としての読書

雨が降り出しそうな曇り空で、蒸し暑い。 いつも通り夕方に退社して、 神保町のカフェで "Crime School"(C.O'Connell 著/Jove) を読む。 英文では読むスピードが三分の一以下になる。 ようやく真ん中を越して後半に入った。 事件そのものより、ストリートチルドレン時代のマロリーがどうして、 下らない西部劇小説を何度も読み返していたのか、という謎の方が気になる。

夜は「夷齋筆談」(石川淳著/富山房百科文庫) を読んだり。

「黄山谷のいふことに、士大夫三日書を讀まなければ理義胸中にまじはらず、面貌にくむべく、ことばに味が無いとある。いつの世のならはしか知らないが、中華の君子はよく面貌のことを氣にする。明の袁中郎に至つては、酒席の作法を立てて、つらつきのわるいやつ、ことばづかひのいけぞんざいなやつは寄せつけないと記してゐる。ほとんど軍令である。またこのひとは山水花竹の歡賞法を定めて、……」
「夷齋筆談」(石川淳著/富山房百科文庫)、「面貌について」より

ここで「書」と言っているのは、もちろん詩か随筆のことなんだろうなあ。

2011年8月30日火曜日

クイックセレクション

ああ、目覚めの珈琲は美味しい。 湿度はかなり低いが、相変わらず日射しは厳しく、暑い。 夕方帰宅。 お風呂に入ってから夕食の支度。 御飯を炊いてだしをひき、 鰤の照り焼き、高野豆腐と若芽の卵とじ、小松菜のおひたし、もろきゅう、 油揚げと葱のお味噌汁。 一汁三菜のつもりだったのだが、手を止めないようにしていたら一品多く作ってしまった。 今日もまた、小麦粉を塗るための刷毛が欲しいな、と思ったのだが、 常に「またこんど」になる。

でたらめに並んだものを正しい順番に並び換える、という事務仕事はしょっちゅうある。 言わゆる「ソート問題」だが、これには「クイックソート」と呼ばれる素晴しいアルゴリズムがある。 これを知っていると日常でもけっこう役立つ。 沢山の伝票を何かの順番に並び換えたいとしよう。 まず適当に一つ伝票を選ぶ。そしてこれよりも「大きい」伝票たち、 「小さい」伝票たちに分ける。 日常では大抵、これだけで手頃なサイズの二グループに分けられるので、 それぞれ自分流に並び換えて重ねればOK。 伝票の数がもっと多い場合には、各グループ内で再度同じことをすればよい。 この手続きを最後まで繰り返すことが、 アルゴリズムとしてのクイックソート、ということになる。

一方で、全体を並び換える必要はなくて、 並び換えたあとの何番目かだけを知りたい、ということも良くある。 簡単なのは最大値と最小値だが、この場合は考えるまでもない。 しかし、丁度真ん中だけを知りたいとか、 上からベスト3の三つだけを知りたい、という問題は自明でない。 これについても「クイックソート」の応用で、「クイックセレクション」と呼ばれる名案がある。 例えば、上から 5 番目だけを知りたい、としよう。 まず、適当に一つを選ぶ。 そしてそれより大きいものと小さいものにグループ分けする。 大きい方のグループに5つ以上要素が含まれていれば、この中に答がある。 小さい方は調べなくてよい。 大きい方のグループに4つ以下しかなければ、逆に小さい方のグループに答がある。 例えば三つしかなければ、小さい方のグループの 5-3=2 番目を探せばよくて、 大きい方は調べなくてよい。 これを繰り返せば、すぐに答に辿り着く。 ベスト3だけを知りたいという問題も同じようにできる。 こちらは「部分ソート」と言ったりする。

プログラミングをしていると、ソートについては大抵ライブラリにあるので、 自分で実装する必要はないし、実装しようとしてはいけない。 しかし、セレクションはライブラリにないことが多い。 すると、賢い人は上のアイデアを知っているので(あるいは自分で思いついて)、 自ら実装しようとしてしまう。 でも、これはよろしくない。 このアルゴリズムを完全に正しく、かつ効率良く実装するのは、腕利きにとっても想像以上に難しい。 自分で書くと大抵バグ入りで、かつ、それほど速くないのだ。 一方でライブラリの中のソートや最大最小値関数は、 枯れ切っている上に超高速実装されている。 だから、本当の本当にその必要がない限りは、 これらを使ってダサい次善策をとるのが筋だろう。 こういう見極めが状況に応じてできるのが、プロというものである。

2011年8月29日月曜日

カフェイン切れ

悪い夢を見た。私は陶器が専門の泥棒で、夜の間ずっと官憲と名探偵から逃げ続けていたのだ。

珈琲のない朝は辛い。 やむなく台湾土産の茉莉花茶を飲んだところで、逆に眠けが増してしまう。 いつもの朝食のあと、出勤。 出社してオフィスのエスプレッソマシンでカフェインを摂取するも、低調なまま。 私は嗜眠症なので、カフェインを摂取した直後しばらくだけが通常営業時、 つまりエルデシュの言うところの "My brain is open" な状態で、 それ以外のときは実は常に開店閉業状態、つまり、目を開けて寝ているのである。 言わば、"My brain is almost always closed". きっと日常生活は脊髄反射か、恐竜のように背骨にある第二の小脳だかが行っている。 夕方になって、 近所のカフェに行き、品質の高いカフェインを飲んでようやく一息つく。 もう退社したあとだけれども。 ついでに珈琲豆も購入して帰る。これで明日の朝は大丈夫だ。

夜は 「夷齋筆談」(石川淳著/富山房百科文庫) を読んだり。

2011年8月28日日曜日

菊正宗とツヴァイク

いつものように 10 時間ほど寝て、起床。 珈琲のあと、朝食の支度。 伊丹流の猫まんま、若芽とブロッコリの軸のお味噌汁、 牛蒡と人参のきんぴら。 洗濯を洗濯機に任せて、その間に朝風呂。 湯船では会計の教科書を読んだ。 いつものように 3 時間ほど昼寝。 お茶を飲んで一服してから、掃除機がけをして、洗濯物を畳む。 冷蔵庫がほとんど空だが、買い物に出るのが面倒なので、 夕食は乾物でどうにかすることにする。 珈琲豆も切れていて明日の朝が確実に辛いことも、 外出の億劫さには勝てなかった。 夕食は、高野豆腐と乾燥若芽を戻して煮物にし、 他にきんぴらと、稲庭饂飩で済ませておく。 つゆは一番だしに薄口醤油と味醂をあわせた八方地。

お風呂に入って、湯船で 「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫) より「木暮保五郎」の章。 木暮保五郎は文士でも学者でも政治家でもなく、 「菊正宗」の醸造家。おかげで他の章と違う味わいで、 吉田健一の酒飲みの部分が出ていて面白い。 夜はツヴァイクの短編などを読む。 ツヴァイクは普通の日にいい。 最近亡くなった俳優の児玉清は、ツヴァイクを愛読していたそうだ。 特に短編「チェスの話」が好きだったとか。 私なら「書痴メンデル」かな。

2011年8月27日土曜日

命名規則

朝飯前に一作業。 週末用の和風の朝食。 お風呂に入って湯船で、 「IBM 奇跡の"ワトソン"プロジェクト — 人工知能はクイズ王の夢をみる」(S.ベイカー著/土屋政雄訳/早川書房) を読む。読了。 今日の昼間はほとんどインストール作業をしていた。 正しくは、再インストール、および、再再インストール。 合間に、ツヴァイクの短篇を一つ読んだ。 夕食は、牛蒡と人参のきんぴら、トマトとブロッコリのサラダ、 錦糸卵とハムと海苔で素麺。 ちょっと疲れたので、夜はボッケリーニの協奏曲を BGM に流しながら、 床に猫と寝転がって静かに "Crime School" (C.O'Connell 著/ Jove) を読んだり。

ネットワーク上のコンピュータには普通、インストール時に「名前」をつける。 一つの組織の中に複数のマシンがある場合には、 関連のある名前がつけられていることが多い。 例えば、数学科の研究室だと、歴史上の有名数学者の名を順につけている、とか。 この手はネタ切れしなくていい。 太陽系の惑星と衛星の名前をつけるのが流行ったこともある (多分、「セーラームーン」のせいじゃないかと思うのだが)。 ちょっと変わったところでは、お酒の好きな人が、 ラム酒の銘柄を順につけているのを見たことがある。 あえてラム酒、というところが渋い。 私は若い頃、自宅の pc に香水の名前をつけていた時期がある。 "samsara", "dune", "mitsuko" など。 自分で言うのも何だが、ちょっと洒落てるね。 最近は、本物の人間の話し相手がほとんどいないせいか、人間の名前をつけている。 ちなみに最近買ったワークステーションは "michiru" と命名した。

2011年8月26日金曜日

餃子

まだ蒸し暑く、早朝から蝉も鳴いている。 今日は幕張に出勤。 現在は、ほとんどの部署が幕張に移動し、あちらが本社ビル。 東京側には、メディア系の部署、 サーバ系の技術開発部門、 それから私の属する、社内で最も謎めいた小さな部署(の一部) などがある。

電車の中では、 「IBM 奇跡の"ワトソン"プロジェクト — 人工知能はクイズ王の夢をみる」(S.ベイカー著/土屋政雄訳/早川書房) を読む。 公共交通機関で通勤するって大変だなあ……。 幕張には居場所がないので、社員食堂で待機。 夕食は、本社で月に一度開かれている宴会企画に忍び込んで (いや、堂々と参加して)、立食で済ませる。餃子パーティでした。 多分、今ははるばる帰路の途中。

2011年8月25日木曜日

「チェスの話」

雨模様。蒸し暑くて敵わない。早く秋にならないかなあ。 昼休憩に新刊書店で、 「チェスの話 ツヴァイク短篇選」(S.ツヴァイク著/辻瑆・関楠生・内垣啓一・大久保和郎訳/みすず書房)、 「IBM 奇跡の"ワトソン"プロジェクト — 人工知能はクイズ王の夢をみる」(S.ベイカー著/土屋政雄訳/早川書房)、 「テロリズム 聖なる恐怖」(T.イーグルトン著/大橋洋一訳/岩波書店)、 の三冊を買って戻る。 夕方退社して、神保町のカフェにて一服。 "Crime School" (C.O'Connell 著/ Jove) を少し読んでから帰る。

帰宅して、お風呂に入り、湯船で 「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫) より「ドナルド・キイン」の章。 夕餉の支度。 御飯を炊いて、味噌汁を作り、残りものなどで済ませる。 菠薐草のおひたし、牛蒡と人参のきんぴら、納豆、いかなごの釘煮。

2011年8月24日水曜日

蝉と蜩

昨夜、つい 「狂風記」(石川淳著/集英社文庫) を読み耽ってしまい、少し寝坊。 せみの鳴き声で目が覚めた。どう聞いても、ひぐらしではないなあ。 いつもの平日用の朝食のあと、 普段より遅く出社。次の私的プロジェクトのための勉強など、 軽いジョブで流して、午後も早い時間に退社。 外はやはりまだ、夏。

自宅で少し休憩。湯船で 「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫) より「石川淳」の章。 風呂のあと身支度をし直して、再び出かける。

馬喰横山へ。日本橋の鮨屋にて会食。

2011年8月23日火曜日

xkcd式パスワード

やはりまだ夏、だなあ……。 16 時頃に退社して、近所のカフェで一服。 "Crime School" (C. O'Connell 著/ Jove) を少し読む。 帰宅してお風呂に入り、湯船での読書は 「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫) より「福原麟太郎」の章 。 夕餉の支度。 菠薐草のおひたしと、牛蒡と人参のきんぴらを作り、 塩鮭を焼いて、あとは素麺。

今はインタネット上に色んなサーヴィスがあるので、 そのたびにパスワードを考えなければならず、面倒で悩ましい。 簡単なパスワードでは総当たりで破られてしまうし、 かと言って、こり過ぎると自分が覚えられない。 それで色々な方法が提案されているのだが、 最近、 xkcd の漫画 で、意表をつくアイデアが披露された。 「普通の単語をランダムに四つ選び、 それをそのままパスワードに使う」のである。 例えば、"superman book vacation tomato" を続けて一つのパスワードとする。 スーパーマンが本を持って休暇に行ってトマトまみれになった、 くらいに覚えれば良いので暗記は楽勝だが、 一見して、安全性は大丈夫なのか?と思ってしまうところだ。 しかし、「普通の単語」と言っても 2 千個(約 11 ビット)以上はあるだろう。 それを四つ独立に選べばその 4 乗、 つまり 16 兆通り(約 44 ビット)以上の可能性があることになる。 これは総当たり式のクラックに対して十分、安全と考えられる。 それに対して、複雑な単語の文字のいくつかを数字や大文字に変えて、 先頭と末尾に記号や数字をつけるなど、 専門家が良く推薦している方法は、 実際には十分にヴァリエーションが多くないじゃないか、 と言うのである。 xkcd らしい、逆説的で、考えさせられる提案である。

しかし、xkcd の提案の真意が伝わらなかったのか、 あるいは全く誤解したのか、 ライフハッカー日本版の記事 などでは、 この四つの単語の先頭の文字を拾ってパスワードに使うと良い、 というポイントのずれた解説がされていたりするのが残念。

2011年8月22日月曜日

老学徒はかく語りき

一日しか静養できなかったので、ちょっと辛い朝。雨で涼しい。 昼休みに、三省堂本店で開かれている古書フェアで 「狂風記 (上・下)」(石川淳著/集英社文庫) を見つけて購入。 確かに持っていたはずなのに、いつの間にか書庫から紛失したので。 他に新刊の 「殺す」(J.G.バラード著/山田順子訳/創元SF文庫)。 調子がもう一つだったので、15 時過ぎに退社。

歳をとると自分の写真を見ることがほとんどない。 つまり、自分の気が緩んでいるところの顔を知らない。 T 君の披露宴で隣の席だった A 先生がいつの間にか撮ってくれた写真を見て、 すっかり枯れた初老の学者、という風情になってきたなあ、と思った。 実際は、学者じゃなくて、ヒラの会社員ですけれどね。 あと、久しぶりに会う元学生たちに気を遣わせるほど痩せたことも、 ようやく実感として自覚。

あ、ちなみに乾杯のスピーチは、 新郎が私のゼミでいかに優秀だったかをベタ誉めしたあと (最高に優秀だったことは事実ですが)、 "oblige" という単語の語源などを説明しました。 「三つ数える」小話(8/20記)は、 ややエキセントリックな新郎への web 版だけのサーヴィスです。

2011年8月21日日曜日

食事の支度

雨で涼しい。おかげで良く眠れる。秋雨の朝の涼しさは格別だ。 秋立ちて幾日もあらねばこの寝ぬる……、か。 朝風呂に入って湯船で、 「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫) より 「横光利一」の章を読んだ。 昨日、一昨日と私にしては食べ過ぎに飲み過ぎだったので、 身体を休めるために朝食を抜く。 代わりにココアなど飲み物を少しだけ。 しばらく昼寝。そのあと、午後は掃除や洗濯などの家事。 夕食の時間まで "Crime School" (C. O'Connell 著/ Jove) を読んだり。

今日初めての食事として、夕食を支度。 食事の支度というものは、毎日毎食続けないとうまく回っていかない。 外食などの都合で少し間が空くと、おかしな組合わせの食材だけが残っていて、 変てこな食卓になってしまう。例えば、 御飯と焼き海苔といかなごの佃煮と、納豆汁と……麻婆豆腐。 夜は読書や趣味の数学など。

2011年8月20日土曜日

名古屋の結婚披露宴会場にて

ご紹介ありがとうございます。原啓介です。 この会場にご参列の方々の正確に二分の一が、 新郎側主賓のスピーチに軽いカルチャー・ショックを受けたことと思いますが、 数学者はみんな空気が読めないわけじゃないですよ。 披露宴の祝辞でいきなり、後ろ向き確率微分方程式の近似解法の話をするなんてねえ……、 それじゃ誰も分かりません。私ならちゃんと、確率空間の定義から始めますよ。 それはさておき、 私は結婚を一度もしたことがないので、このような席で祝辞を述べる資格もなければ、 また結婚がお祝いに値することなのかどうかも知らないのですが、 人生には "oblige" と言うものがあるようですね。 私は誰のことも自分の弟子だと思ったことはありません。しかし、 もし私のことを師匠だと思ってくれる人がいるならば、 そしてその人の依頼ともあれば、 乾杯の祝辞のために駆け付けるのもまた、"oblige" でありましょう。 では、乾杯の前に、「三つの何か」の小話でもしましょうか。

昔々あるところに新郎と新婦がおりまして、 馬に乗って新婚旅行に出かけました。 新郎の乗った馬が先に立ち、かっぽかっぽとのどかに歩いておりますと、 新婦の馬が木の下を通ってしまい、細い枝がぴしり、と新婦の額を打ちました。 それを見た新郎はひらりと馬から飛び降りて、 新婦の馬の眼を正面からじっと見つめますと、「一つ」と言いました。 またしばらくして、小川のほとりに出た頃、 新婦の馬が今度は小石に足をすべらせて、新婦を振り落としそうになった。 それを見た新郎はひらりと飛び降りて、 新婦の馬の眼を正面からじっと見つめますと、「二つ」と言った。 またしばらく歩いて、広い野原に出た頃、 突然、野兎が馬の前に飛び出してきたものですから、 新婦の馬が棒立ちになり、今度は新婦を地面に振り落としてしまいました。 それを見るなり新郎は「それで三つ!」と叫ぶと、 懐からピストルを取り出すやいなや、馬の眉間を撃ち抜いた! あまりのことに新婦は呆然としていましたが、 やがて堰を切ったように新郎の背中に叫びました。 「一体、あなたは、なんてことをするの! どうしてそんなことをする必要があったの? このかわいそうな動物にどんな罪があったって言うの? あなたは狂ってる、キ印よ、いいえ、はっきり言ってあげましょうか、 あなたは最低、最悪のサディストよ!」。 すると、新郎は静かに振り返り、 新婦の眼を正面からじっと見つめて、こう言いました。 「一つ。」

伊丹十三氏によれば、結婚にはこのくらいの気迫を持って臨みなさい、 とのことです。 さて、乾杯しましょうか。 みなさん、お手元のシャンパンなりビールなりをお持ち下さい。 よろしいですか? では、To survive! 乾杯!

2011年8月19日金曜日

泥棒か貴族

今朝はまだ暑かったが、大雨が秋を連れて来るらしい。 すぐに、朝明の風は手本寒しも、となるのだろう。 いつもより少しゆっくりしてから家を出る。

夕方退社して近所のカフェで一週間の反省と読書。 のち、下北沢に移動。下北沢は私の青春の街なので、 特に何と言うこともなくても、訪れると常に少し胸が痛む。 一方、青春時代は横浜無宿、大人になった今は浅草無頼の N さんと夕食。 そのあと、最近の私としては珍しく、 少々お酒をおつきあいする約束なので、 おそらく今は青山の骨董通りのバーにいるはず。

あるエッセイを読み返していたら、確か石川淳の小説の一場面だったはず、 として次のような話が紹介されていた。 主人公が屋根裏部屋みたいなところで音もなく素早く食事を済ます、 するとそれを眺めていた女が、 ア、おまえさんは私達の仲間だね、 音を立てずに素早く食事をするのは泥棒か貴族に決まってるのよ、なんて言う。 この小説が何なのだか分からない。 「狂風記」のような気がするのだが、 数回の引越のどこかでなくしたらしくて書庫に見当たらず、確認できない。

2011年8月18日木曜日

交遊録

夕方、退社。 帰宅してお風呂に入り、 湯船で 「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫) より「F・L・ルカス」の章を読み終え、 「河上徹太郎」の章に入ったところまで。 湯上がりに冷たいものを少し飲んでしばらく休んでから、 夕食の支度をして済ませ、 夜は「交遊録」の続きや、 "Crime School" (C.O'Connell著 / Jove) など。

2011年8月17日水曜日

メンチカツとビールと吉田健一

夕方に退社して、近くのカフェで一服。 外に出たら、まだ暑くて喉が乾く。 昼間からビールを出す近くの洋食屋へ。 私は大年増好きなので、この店のちょっと怖い感じの小柄な女主人も好きだ。

夕食に、冷えた生ビールとメンチカツ。 ビールを飲みながら、店にあわせて吉田健一の 「交遊録」(講談社文芸文庫)から「牧野伸顕」の章を読む。 ちょっと泣けてくるくらい良い文章だ。 著者は自分の最初の「友達」として「牧野さん」のことを書くのだが、 言うまでもなく、牧野伸顕は著者の実の祖父である。 しかし、どこにも自分の祖父だとは書いていない。 通常、吉田健一の文章は一文が無闇に長くて、諧謔と逆説に満ちていて、 しかもその途中でくるくると印象が変わり、 本当はどちらを支持しているのか分からなくて、 句点の直前で背負い投げにされたりするのだが、 この本については全面的に愛情で書かれていて表裏がない (しかし、注意深く読まないと本意がとれなくて、 それだけ注意深くなる価値があるのは同じ)。 ほんとうにしみじみとして、美味いビールだった。

牧野さんもそのように生活を楽しんだ。或はその形でただ生活した。それでその前に出るとただそれだけで豊かな感じがしたもので、このことをもう少し説明するとそこには二十歳で英国に渡った時の航海もロンドンの霧も鹿鳴館の煌きもフランツ・ヨゼフの宮廷も、そして又山形有朋との暗闘もクレマンソオとの交渉も牧野さんとともにその歴史としてあって、それが普通の人間に余りないことなのではなくてその底流をなすものが普通の人間の生活であるのが明かであることがその普通の人間というものがもしあるならばその生活の奥行きを示してそれを豊かにするのだった。その普通ということだけ余計に思われて凡ての人間に共通であるただ一つのことが人間であることならば一人の人間が地道に生きて行くことで始めてその人間が接するものも光を増し、そのありのままの姿を見せるものであることが牧野さんを通してそれを意識していないものにも朧げにでも解った。例えば食通を以て任じているものには食べものはその味がしない。又自分が絵画の専門家だと思っているものの眼に絵は見えはしないのである。これは澄んでいて静かな水が一番よくものを映すようなものだろうか。

「交遊録」(吉田健一著/講談社文芸文庫)、「牧野伸顕」より

2011年8月16日火曜日

企業買収

google がモトローラ・モビリティを一兆円近い金額で買収した、 というニュースの激震で、日本時間で昨日の深夜から業界は騒然。 しかし、それで何がどうなっていくのか全く分からない。 少なくとも、 今日あちこちで読んだ証券アナリストたちの見解は、 「風が吹けば桶屋が儲かる」程度の戯言としか思えない。 取り敢えず、弊社の株価は急騰していたので、おとぎ話でも戯言でもありがたいけれど。

そんな業界激震の日であっても、平凡な日常が過ぎていくのは、 ドライマティーニの中の二粒のオリーヴの実のごとし(ひさびさの意味なしジョーク)。 ちまちまとコードを書いたり、 ドキュメントを作ったり、 西海岸にいる CTO とテレカンで期初の面談をしたり、 でたらめに切ったトランプの順番を覚えようとしたり、 マイクロソフトが頭に血が昇ってノキアを買収しようとするかどうか議論したり、 そんな一日。

2011年8月15日月曜日

残暑

暦で立秋を過ぎた以上は「残暑」と呼ぶのが正しい、 って言うけど、 夏については流石に意味ないんじゃないかな……暦。

久しぶりに出勤。 やや人の少ないオフィスに出社。 自分が何をしていたか思い出す目的も兼ねて、コードのクリーニングなど。 cleaning_up と名付けたブランチで、ちまちまと手工業。 夕方退社して、スーパーで食材を買って帰宅。 お風呂に入って、湯船で "Cauchy-Schwarz Master Class" (J.M.Steele 著 /Cambridge)。 夜は作業や仕事をするのはよして、安静に過す。

2011年8月14日日曜日

フラワー通りにあるコーンビーフを食べさせる店

"Crime School" (C. O'Connell著 /Jove) を少し休憩して、 「ロング・グッドバイ」(R.チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房)。

チャンドラーは気になる細部が多い。 例えば、主人公のマーロウが一度だけ立ち寄って食事する店。 女性と犬は立ち入り禁止の店らしい。 とても乱暴な店で、ろくに髭も剃っていないウェイターが料理の皿を投げ、 勝手にチップを差し引くらしい。 そもそも、「コーンビーフを食べさせる店」って、何が出てくるのだろう。 手の込んでない料理だが味は申しぶんなかった、らしいし、 スウェーデン製のブラウン・ビールがマティーニのようにきりきりしていた、 らしい。 数行ほど描写されてそれでおしまいの、 専門用語で言うところの「捨てカット」なのに、 キャラクタが立っていて、変に印象に残って、何故か気になる。 そんな場面がチャンドラーには多い。

2011年8月13日土曜日

ロング・グッドバイ

「ロング・グッドバイ」(R.チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房)。 訳者ほどではないが、 「グレート・ギャツビー」(「華麗なるギャツビー」)と同じく、 「ロング・グッドバイ」(「長いお別れ」)も時々読み返す小説。 どちらも読み飽きない。

2011年8月12日金曜日

夏の香り

某所にて、"Bass" のペイル・エイルで軽い夕食。 オコンネルの "Crime School" (C. O'Connell著 /Jove)を読む。

2011年8月11日木曜日

トラウマ的シンプレジア

とっておきの 「感謝だ、ジーヴス」(P.G.ウッドハウス著/森村たまき訳/国書刊行会)、読了。 嗜眠症のねこのオーガスタスがかわいい。 私自身がねこなみに寝るので親近感。 きっと私もトラウマ的シンプレジアに違いない。 ああ、あと一冊、「ジーヴスとねこさらい」を残すのみなのか。 そのあと何を支えに生きていけばよいのか、故エリザベス皇太后に尋ねたい。

2011年8月10日水曜日

マロリー・サーガ

「魔術師の夜 (下)」(C.オコンネル著/務台夏子訳/創元推理文庫)、読了。 相変わらずのオコンネル節。例えば、登場人物表に四人も「故人」がいる。 ずっと昔に亡くした妻が幽霊として傍に存在するという現象を、 日常でも演じ続ける狂気の天才マジシャンという設定も、いかにもオコンネル。 第五作に至って、マロリーは随分と人間らしくなってきた。 ここまでしか翻訳されないまま品切れ状態なので、 以降のマロリー・サーガは原書で読まざるを得ない。 「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社)、 ゲーデルの第一不完全性定理の証明。 こんなに簡単だったっけ。

2011年8月9日火曜日

夏休み

朝風呂の湯船で「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社)、 再帰的関数の章を終えた。 「魔術師の夜 (上)」(C.オコンネル著/務台夏子訳/創元推理文庫)、読了。 休暇中の就眠儀式本は、 「ツァラトゥストラ (上)」(F.ニーチェ著/丘沢静也訳/光文社古典新訳文庫)。

2011年8月8日月曜日

魔術師の夜

休暇用にとっておいた 「魔術師の夜 (上)」(C.オコンネル著/務台夏子訳/創元推理文庫) を読み始める。 「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社)、 再帰的関数について。

デリバティヴ研究部会のセミナと、そのあとゲストを交えての会食。

2011年8月7日日曜日

グレート・ギャツビー

なつやすみだから、「グレート・ギャツビー」を読もう。

朝風呂の湯船で、 「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社)。 そのあと一日をかけて、 「グレート・ギャツビー」(S.フィッツジェラルド著/村上春樹訳/中央公論新社) を読む、読了。加齢とともにか、なお深く感動。

明日は、デリバティブ研究部会のセミナに出席する予定です。

2011年8月6日土曜日

ねじまき少女

私が遊んでいる間、代わりに仕事をしてもらうため、 自宅ワークステーションのアイドリング中の演算能力を寄付するよう設定。 GPGPU に対応しているプロジェクトから、 たんぱく質構造予測(GPUGrid)と素数探求(PrimeGrid)の2つを選んだ。

「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社) 、 3.2「ゲーデルの完全性定理」の終わりまで。 「ねじまき少女 (下)」(P.バチガルピ著/田中一江・金子浩訳/ハヤカワ文庫)、読了。 「ツァラトゥストラ (上)」(F.ニーチェ著/丘沢静也訳/光文社古典新訳文庫)、開始。

2011年8月5日金曜日

記憶の宮殿

「ねじまき少女 (下)」(P.バチガルピ著/田中一江・金子浩訳/ハヤカワ文庫)、読みかけ。 「Coders at Work」(P.Seibel 著/青木靖訳/オーム社)、 仕事の合間合間に少しずつ読み、ようやく読了。 こういう本を楽しんで読めるというだけでも、プログラミングを学んだ価値があった。 「 ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由」 (J.フォア著/梶浦真美訳/エクスナレッジ)、 面白いし翻訳水準も高いのに、この邦題はどうかなあ。 ちなみに、原題を直訳すると、 「アインシュタインとのムーンウォーク (すべてを記憶する技芸と科学)」。 これじゃ日本では売れない、と思ったのだろうか。

夕刻より、短期休暇スタート。夜は京橋のリストランテで N さんと会食。

2011年8月4日木曜日

休暇と緊急要請

晴れたり、曇ったり、雨が降ったりの変な天気。 暑いような、涼しいような、やっぱり蒸し暑いような。 今日は何故か仕事に身が入らず、さっさと切り上げる。 新刊書店で、 「7つの言語 7つの世界」(B.A.Tate 著/まつもとゆきひろ監訳・田和勝訳/オーム社) などを買った。

暑いので、明日 5 日(金曜)の夕方から、短い休暇に入ります。
期間は 8 月 15 日(月曜)の朝まで。 この間も一日一回 30 分程度だけインタネットに接続するよう心掛けますので、 私用に限りメイルでの連絡は可能です(多分)。 急ぎの連絡はあきらめて下さい。 たった十日間くらい遅れてもいいじゃないですか、 あわてないあわてない、一休み、一休み。

と言いつつ、仕事で緊急の連絡が入ったことなんて、 これまでの人生でたった一度しかない。 そのせいか、むしろそういうことに憧れがあるかも知れない。 何だか自分が重要な仕事をしているように錯覚できそうで。 私のたった一度の経験は、残念ながらかなり、ささやかだった。 十五年くらい前だろうか、 銀座の画廊勤めの女の子たちとデートしている時のことだ。 あまり繰り返すと虚しい気持ちになるばかりだが、当時の私はとてもモテた。 今ではまったく想像もできない。 超常現象としての「モテ期」は存在すると思う、ほんと。 閑話休題、と書いて、それはさておき。 そのデートの最中、PHS に某天才プログラマから連絡が入った。 かなり夜も遅い時間だったと思う。 いきなり、 「ヴァージョン2とヴァージョン3の判定ってどうなってんの?」 という質問に、 「2で話しかけて、通じなければ3に切り変えてやり直す」と答え、 「わかった」と言うので、30 秒で通話は終了した。 それが今までで唯一の、業務時間外の緊急(?)連絡だった。 今後についても、ないと思う。

なお、この休暇中も、このページはいつもの通り定時に更新されますが、 内容はその日読んだ本のタイトルが書いてある程度のショートヴァージョンです。 昔のモテ期の思い出をしつこく繰り返す、老人の自慢話などは書きません。

2011年8月3日水曜日

トートロジ

今日もまだ涼しい。 夕方退社して、神保町のカフェで 「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社) を読む。

第二講「命題論理」を終えた。 気持ち良いほどにトリヴィアルだ。 クリスタル・クリアとはこういうことを指すのだろう。 トートロジに心洗われる。 常に正しい命題、略して恒真命題、英語ではトートロジ。 例えば、「AならばA」、これはトートロジ。 「Bならば「AならばB」」、これもトートロジ。 「「Aかつ「Aでない」」ならばB」、これもトートロジ。 嗚呼、常に正しい、って素敵。 でも第二講の終わりにコンパクト空間の話が出てきて、 その馴染み深さでふと正気にかえった。 基礎論も解析学も同じ数学ですよね、当然ながら。

2011年8月2日火曜日

ロジック

今日も涼しい。 これなら昼休みに神保町散歩が出来る。 新刊書店で「数学基礎論講義」(田中一之(編著)・鹿島亮・角田法也・菊池誠/日本評論社) を買った。

夜は「数学基礎論講義」を読んだり。 基礎論や記号論理学は、普通の(?)数学とはまた違った面白さがある。 専門家に怒られそうだが、意味のないところがいい。 無意味さに心が洗われる感じ。 「Aでないならば『AならばB』」はいつも真です、とか。 いや、その意味ではどんな数学にも意味はない、と言われるかも知れないが、 もう一段深い意味で、意味がない、感じがする。 うまく伝えられないけれど、そんな感じ。 私の基礎論の知識は、通俗的な読書を除けば、 学生時代に教養課程の講義で「記号論理学」を履修したのと、 やはり学生時代に自分でゲーデルの論文を読んだのがほぼ全てなので、 分野自体を大いに誤解している可能性はある。

2011年8月1日月曜日

コラール

昨夜、締切より二ヶ月ほど早く、書評の原稿を提出。 今日も涼しい。昼食はとらない習慣だが、 外国支社のVPが仕事で一時帰国していたので、 近所の蕎麦屋で昼食をご一緒する。

今日の音楽は、 "Preludi ai Corali" (J.S.Bach / Quartetto Italiano di Viole da Gamba). バッハのコラールはいい。 ヴィオラ・ダ・ガンバがまたいいね。